グラフィックデザイナーがウェブデザインをやるときに必ず経験する、気持ち悪くなる仕様上の限界との邂逅。それが文字切れ。
文字切れの悪さは、虫に刺された箇所のように嫌な感じがある。いつまでも痒さが取れない気持ち悪さ。
そして、
「改行位置を限定できないことが、こんなにも気持ち悪いこととは知らなかった」
などと言ったりする。
ウェブデザイナーやコーダーは「そんなもんスよ」とか言うのだが、「んなわけあるか」と思うのがグラフィックデザイナー。
文字切れはグラフィック畑における初歩中の初歩。
「ヘンな文字を行頭にもってこない」「ヘンなところで改行しない」という常識というか、美意識みたいなものだ。
それはとても大切なことなのだ、と習う。
クライアントからのチェックバックで文字切れの悪さを指摘されたら、「それは大きな恥だ」的な扱いなのだが、最近はあまりうるさくない印象がある。
その理由はわからないが、「グラフィックは知らないけれどデザインはやってる」という人々の参入があるからでは、と思っている。
最近はワードやイラストレーターの浸透で「禁則処理」という名称が知られてきたと思う。行頭に句読点を置かないとか、閉じる方のカッコを置かないとか、そういう処理のことだ。
そこで、もう少し踏み込んで考えるのがグラフィックデザイナーの仕事。
行頭に「を」がくるような文章はなんとかして回避するよう教育されてきたのだが、最近は印刷物でも「ありゃあ」と思うものが増えていて、誰も教えていない・教わっていないのだなと、大きなため息をついたりする。
美しさについて真剣に考えているならば、行頭に「を」がこないのは当然として、単語がヘンなところで切れないように、レイアウトあるいはコピーの調整まで行いたい。
イラストレータやインデザインのデフォルト禁則処理を使って安心している層には理解されないだろうなと思いつつ、自分だけはなんとか回避する術を考えているのだ。
ウェブデザインにおいて文字切れが放置される理由は、以下の3つが挙げられる。
- デバイスの幅がバラバラ
- デバイスフォントごとに異なる文字幅
- ユーザーが独自に設定する文字サイズへの対応が実質無理
閲覧環境が決められないために、文章がどこで改行されるかわからない。デバイスは禁則処理をするものの、「固有名詞が泣き別れになる」「そこで改行するならこっちのほうがいいんだけどなあ」といったデザイナーの悩みは解決されることがない。
一度知ってしまったら戻れなくなる美意識の崖。
文字切れの悪さに対する忌避感は、デザイナーを続ける限り積み上がり続けるような気がする。
サントリーの翠で物議をかもす
2025年3月、ポスターの文字切れが悪いということでSNS上が賑わった。
さまざまな憶測とワケ知り顔のくりえいちぶ議論が飛び交ったけれども、ついぞ正解にたどり着いた人を見かけなかった。
憶測で書いてはいけない、という好例を残した事案だと思われる。