デジタル全盛になって、手でイラストレーションを描く人は減っているかもしれない。
ということは、手描き原稿を保護する方法をご存知ない人が、すごく増えているかもしれない。
最近はクリアファイルが安いので、それを使っている人が多いかもしれない。
でもクリアファイルにイラストレーションを出し入れする時、描画面はこすれて削られる危険性が残る。出し入れするたびにイラストが傷んでるって考えたら、もうちょっとちゃんと保護したいと思うのが人情というもの。
というわけで、昭和の時代から培われてきた「プロの現場のイラストレーション保護術」のご紹介をしてみる。
アナログの手描きイラスト原稿を1枚ずつ簡単に保護したいと考えている方のためのメソッドですぞ。
グラフィックデザインの現場では、主に版下で使っていた方法。
イラストレーターは自身の原稿を保護するためにやっていた方法。
アシスタントがまず覚える仕事のひとつ。
だから決して難しくない方法。
いつもいつも「これトレペかけといて」と言われてたやつで、つまり、トレーシングペーパーを活用する方法。
正式な呼び方は……そういえば考えたこともなかったな。俗に「トレペかけ」と言われる方法。
準備するもの
まずは準備するもの一覧。
- トレーシングペーパー(ロールタイプ)厚口(50〜60g/m2)420mm幅×20mでだいたいカバーできるはず。
- カッターナイフ
- ペーパーウェイト2コ(定規のようなものでもOK。長さが必要です)
- 18mm幅メンディングテープ(なければセロハンテープ)
- レイアウト定規
- カッティングマット
手順は次の通り
- トレーシングペーパーを広げる。
- イラストレーションを描いた紙を、描画面を下にして置く。
- 長辺の一辺をテープで貼る。
- テープの境界でトレーシングペーパーをカットする。
- テープを貼った部分を、5mm残してカットする。
- テープと反対側のトレーシングペーパーを60mmほど残してカットする。
- 短辺のトレーシングペーパーをカットする。
- 60mm残したトレーシングペーパーを二つ折りにして、さらに折りたたむ。
- テープを貼った部分の角をナナメにカットする。
- 二つ折りにした側のトレーシングペーパーの角もナナメにカットする。
- 二つ折りにしたトレーシングペーパーの中央に一つ穴を開ける。
- テープを貼る。
作業は簡単なのに、リスト化してみたらナニコレ。げんなりするくらいの作業に見えるな。
大丈夫です、簡単ですから。
できる気がしないとか、そんなことないですから。
いやホンマに。(書けば書くほど信憑性が低くなる)
あ、ちなみに長さはすべてmmで解説しているのは、グラフィック系の単位がミリメートルだから。 1メートルを超えてもミリ単位。1,030mmとか3,600mmとか普通に使う。センチ? なにそれうまいのけ? という扱い。
保護する用紙とトレーシングペーパーをテープで貼る。
ロールタイプのトレーシングペーパーを広げる。
ペーパーウェイトを両端において、トレーシングペーパーが丸まらないようにしておくと作業がスムーズ。写真のように置くので、長さのあるものがよいのだが、なければ四箇所にウェイトを置くなどして対処していただければ。(要はトレーシングペーパーが丸まらなければよいので、臨機応変に作業を進めてください)
トレーシングペーパーの切れ端から少なくとも60mm開けて、保護したい用紙を置く。
このとき、イラストレーションの描画面は下にする。(うつぶせで置けばOK)
次にメンディングテープを貼る。
なぜメンディングテープなのかというとテープが伸縮しにくいから。ちょっとテンションをかけつつ貼り付けるのだけれど、これが紙のソリを招いたりする。セロハンテープよりもメンディングテープを選ぶデザイナーは多かった。とはいえ、普通のセロハンテープより高価なので、手が出にくいアイテムではある。事務方に申請しても買ってもらえなかった過去が思い出される、嗚呼。
閑話休題。
保護したい用紙とトレーシングペーパーをテープで貼り付ける。
貼る位置は一箇所。長辺のひとつを端から端まで貼る。短辺よりは長辺の方が長期保存に向いている...はず。
テープは紙の長辺より長め。紙の端から軽く出るくらいの長さが必要。
テープは幅の半分が用紙に、もう半分がトレーシングペーパーにかかるイメージで貼る。紙の端から出す長さは下の写真ぐらいで。指1本分くらいは飛び出す感じ。
「長すぎるとテープがもったいない」なんて思うかもしれないけれど、節約を意識しすぎて紙の長さに足りなくなって失敗、というのは避けたい。
テープを貼り付けたら、トレーシングペーパーのロール側はいらないのでカットする。
無駄が出ないようにテープギリギリで切るのがベスト。
ただし、このカットに時間をかける意味はないので、テープは切らないようにトレーシングペーパーだけを「さくっ」と切り落とすことを考えて作業する。
これで準備OK。
続いてトレーシングペーパーをカットしていく。
トレーシングペーパーをカットする。
テープで貼った長辺の反対側は、トレーシングペーパーを60mm残してカットする。この幅は60mmと決まっているわけではないのだけれど、あとで使うために50〜60mm程度の幅を残しておく必要がある。狭すぎると困ってしまうので注意。
続いて残りの三辺をカットしていく。
まずはテープ側。
紙の端から5mmくらいの幅を残して、テープごとカットする。
これも5mmと決まっているわけではなくて、レイアウト定規が5mm方眼なので合わせやすいところを使っている。
これより細くしてしまうと、トレーシングペーパーと原稿がはがれてしまう事故が起きることもあるので、テープ幅については最低でも5mmは確保したい。
逆に長すぎると保管スペースを取ってしまう。いい感じのケースに入りませんでした、みたいなのはちょっと困るので、だいたい5mmかなあ。
次に短辺のトレーシングペーパーをカットする。こちらはジャスト幅でOK。 保護する紙を切ってしまわないように注意する
左と......
右もスッパリ切り落とす。
仕上げ。
手順でいえば7/12まで終了。あと5つ。折って切って貼るだけ。
60mm残したトレーシングペーパーを半分に折って30mm幅にする。
折ったトレーシングペーパーを、さらに折り返す。
紙の端をテープで貼って→ぐるっと覆って→折り返して保護するという、基本的な形ができた。このあと、ちょっとした気遣い作業をやれば完成。
ホント、あとちょっとですよ。
5mm幅を残したテープの両端をナナメにカットする。特に角度に決まりはなくて、だいたい45°くらいかな〜、という感じでカットする。
この作業をやっておくと保護力を高めることができる。何かの拍子にぶつけたり落としたりしたとき、原稿が折れ曲がったり傷んだりする危険性を減らせるのでオススメ。
次に、二つ折りにしたトレーシングペーパーの両端もナナメにカットする。
これも保護力を高める方法のひとつで、トレーシングペーパーが破れたり折れたりする率をできるだけ低くする。
二つ折りにした状態でカットして、台形のようにする。
カットする角度は鋭角でOK。
原稿と同じ幅にしておくと他の原稿などにひっかかったりして、トレーシングペーパーが破れたりすることがあるので、少し幅を狭くしておくことで事故を防ぐ。
アップにするとこんな感じ。これくらいでカットしておけばOK。仕上がりは下の写真をご参考に。
折り返したら、原稿よりちょっと内側にトレーシングペーパーの両端がくるようカットする。
次に、折り返し部分の真ん中あたりに穴を開ける。
穴の形状に決まりはないけれど、ひし形が多いんじゃないかな。人によっては三角形の場合もある。
これも「開けやすい穴」であることがポイント。作業効率を求めるのでカッターナイフの動きは減らす方向になる。
カッターナイフを三回、あるいは四回動かすだけにとどめ、ある程度安定感のあるサイズの穴を開けることを意識する。
料理の下ごしらえと一緒で、手早さも身につけるといい。
具体的には、折り返しを一段階開いて(二枚重ねの状態、30mm幅)カッターナイフでナナメに線を入れ、ひし形の穴を開ける。
サイズは15 × 20mmくらい。
なぜ折り返しを開くかというと、開かずにカッターナイフを入れると保護する紙まで穴を開けてしまう危険性があるから。確実な作業が安心を生むので横着はしない。
場所は一箇所でOK。できるだけ真ん中に開けるようにする。原稿のサイズが大きい場合は、二箇所に増やして対処したりする。(たとえば紙の中心ではなく、両端から1/3の位置に一箇所ずつ。それでも足りなければさらに増やす)
こんな感じで穴が開いたら、最後の作業であるテープ貼りをする。
まず、折り返し部分を原稿側にもどして穴の位置が紙のどのあたりにくるかを確認する。
ここらへんかなーとアタリをつけたら、折り返し部分を少し開いて、紙の方にテープを貼る。
折り返し部分を紙に重ねたときに、穴の直下にテープが貼られていればOK。ズレていたら穴の位置をカバーするようにテープを追加して対処する。
次に、折り返し部分の上からテープを貼って穴をふさぐ。
穴の上からテープを貼って、紙に貼ったテープに重ねて完成。
上から見て「テープ / 折り返し部分 / テープ / 原稿」の順になっていればOK。
これでトレーシングペーパーを固定できて、しかも何度でもドアのように開閉できる構造ができた。
紙にテープを貼らないと、テープが紙を剥がして傷め、しかも粘着性がなくなって二度と貼れなくなってしまう。紙にテープを貼っておけばそういう事故がなくなる。そんなわけで穴の全域をカバーするようにテープを貼る必要がある。
18mm幅のテープならあんまりビクビクせずに穴が開けられる。なのでそれより細いテープはオススメしない。
また、この作業はすぐに慣れることができるので、穴は真ん中あたりに小さく開けることを意識して作業をしていただければ。
もしも穴のサイズが小さくて、粘着力が足りなくて折り返し部分がはがれてしまうようなら、穴を大きく開け直してテープを貼りなおせばOK。
また「18mm幅のテープを使うので、この折り返し部分は30mmくらいの幅が欲しい」ということでもある。下図のとおり、6mm幅しか残らない。なので、折り返し部分の幅はこれくらいないと不安なのだ。
何度か貼ったり剥がしたりすることを想定すると、ひし形の切り口の周辺は強度が必要なので、やっぱりちょっと幅は大きめにしておきたい。
トレーシングペーパーを1枚かけておくだけで事故が防げるので、ぜひお試しください。