紙を手配した。
マットコートを重さ違いで3種。これで何をするかというと、束見本(つかみほん)を自作する。
束見本とは
束見本とは、印刷用紙で作られた白紙の冊子見本。ホワイトダミーともいう。(※1)
「パンフレット」「ブローシャ」(※2)「ブックレット」などと呼ばれる、冊子型印刷物の仕上がりをお客さんにお伝えするものだ。
とはいえ、あくまでも白紙。
それだけ見せられても「なんのことやらさっぱり」と言われる確率は高い。自分が客の立場ならたぶんそう言っちゃう。
だから一般的な印刷業者さんは印刷物もサンプルとして提示する。不特定多数に配布するわけではないので、別件の成果物が使われることが多い。他社のカタログとか。
でも、ぼくはデザイナー。出来上がりサンプルの持ち合わせは少ない。
ネット通販業者さんが作っているハガキサイズの印刷見本を用意することになる。説得力は大幅に欠如してしまうのだが、こればっかりは仕方がない。業者は1万部とか10万部とか扱うから、工程上できあがる予備の単位は100部。こっちは5とか10とか。数件の打ち合わせで枯渇するため、使い回しで乗り切る。
束見本を作る理由って?
束見本を作る理由は大きく2つある。
- 冊子の厚さ・大きさ・手触りなどの仕様を確認していただく。
- その仕様で製作した場合の費用算定を行う。
コストカットを前提とした案件では色校正(※3)という工程を省くことが多い。ネット通販を利用する案件では色校正を出さない、と断言してもいいくらい省かれることが多くなった。
その結果、クライアントは仕上がりが想定できないまま成果物を受け取ることが増える。
名刺などのように数千円で済むものは問題が発生してもリカバリー可能だが、冊子のように数万円〜という件では補償も厳しい。最悪の事態を避けるため、事前の準備が不可欠なのだ。
なぜ自作するのか?
通常、束見本の作成は印刷業者さんに依頼する。
印刷用紙は潤沢にあるし、手慣れた人たちが作業するから早い。ただ、機械ではなく手作業なので人的コストがかかるため、安い案件ではいちいち見本など作ってくれない。その代わりに他社の成果物をサンプルとして提供してくれる可能性は残るのだ。
ネット通販では低コストを担保するためにあらゆる作業はオプション扱いとなっていて、作業が追加されるごとに費用が発生する。あるいは「対応していない」場合もある。前者なら支払えば済むが、後者は自作するしか方法がない。
上記の理由によって、わざわざ紙を買って束見本を作ることになるのだ。
とはいえ、イヤイヤやっているのでもない。精進すればZine(ジン)の自作に役立つスキルだから、ここはノリノリでやっておくべきなのだ。うまく作れると楽しくなってくるし。
B5、A5、B6、サイズ違いで3種類作った。
マットコート110kg、12ページ。
関係ないけれど、この歳になって
文鎮をよく使うようになった。
紙を押さえるのに便利。
こんな感じで実際のサイズの冊子見本を作った。
てきるだけ実際のサイズにしたいので、トンボのみのデータをプリントアウトした6枚の紙に鉄筆で折り目をつけて半分に折り、ステープラーで2箇所に針を打ち込み固定。一番最後に冊子を閉じた状態で断裁すると正確な見本になる。表紙が一番大きく、中ページは小口が切り落とされる。
面倒臭がってジャストサイズの紙を半分に折って作ると、失敗する確率が高くなる。
たまにこういうものを作ると、初心に返るような気がする。
ウェブ中心のお仕事をされている方は、おそらくご存知ないだろうこのツール。もしも印刷のお仕事がやってきたら、一度作成されることをオススメしたい。厚さや手触りをクライアントに知っていただくという利点が第一だが、自分自身で仕上がりが想定できるというのはとても大きいので。
- ホワイトダミーは、パッケージや箱、POPなどの案件で作成される。アイランド陳列のディスプレイとかでも。[戻る]
- 【brochure】と書く。最近この用語を使っている人を見ない。ブロッシャーとかブローシャーとか書かれるが、ブロゥシュワと聞こえるなぁ、とか思う。でも英語圏では普通に使われる単語。グローバル時代を生きるグラフィックデザイナーは覚えておいて吉。[戻る]
- 本番の紙に試し刷りをして色の再現性や抜け・欠けなどを確認する作業。タレントや商品写真が入る場合は省くわけにいかないが、名刺やチラシ程度なら省かれる傾向にある。[戻る]